2009年10月27日火曜日

水滸伝(10)/北方謙三

[呼延灼]

官はついに地方軍の切り札・代州の呼延灼将軍に出撃命令を下した。呼延灼は、一度だけなら必ず勝てると童貫に宣言し、韓滔・彭玘とともに、戦の準備を着々と進めていく。
凌振の大砲をはじめとして、恐るべき秘策を呼延灼は仕込んでいた。一方、梁山泊は、晁蓋自らが本体を指揮し、万全の布陣で戦に臨む。精強な軍同士の衝突が、静かに始まろうとしていた。
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「ひとりで、高俅に突っ込んでいけ、林冲」

公孫勝が、少し好きになった。

「こうして、お前に会えただけでも、私には充分すぎるほどだ。一度は、行ききった。陳麗とともに、行ききった。」




2009年10月25日日曜日

水滸伝(9)/北方謙三

[呉用]

死んだはずの妻、張藍が生きている。そのほうを受けた林冲は、勝利を目前にしながら戦を放棄し、ひとり救出へと向かう。一方、呉用は攻守の要として、梁山泊の南西に「流花寨」を建設すると決断した。しかし、新寨に楊戩率いる三万の禁軍が迫る。周囲の反対を押し切って、晁蓋自らが迎撃に向かうが、禁軍の侵攻に青蓮寺の巧みな戦略が込められていた。
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宋江とともに、歴史を変えようと言う夢。それさえも、自分は捨ててきていた。女一人救えなくて、何の志が。何の夢か。

お前が、官軍を恐れて二人を無視するような男でなくて、俺は良かったと思っている。

ここで、踏ん張るのよ。3日、4日眠らねえから、何だってんだ。男はよ、語り継がれるようにならなきゃならねえ。わかるか、楊林。あいつはすげえって、皆に言わせるんだ。今だけじゃなく、俺たちが老いぼれても、死んでもな。




2009年10月24日土曜日

水滸伝(8)/北方謙三

[解珍・解宝]

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解珍・解宝親子は、祝家荘に大量の兵が入っていることに気づく。官軍が梁山泊の喉元に、巨大な軍事拠点を作ろうとしていたのだった。
宋江、呉用らは、それを阻止しようとするが、堅固な守りと、張り巡らされた罠によって攻めきることができない。勝利を確信した官軍に対し、梁山泊軍が繰り出した秘策とは。
最初の総力戦が、今幕を開けようとしていた。
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「死ねば土。どこからでもいいぞ、来い。」

鄭天寿のような、死に方もあるのだ。。。

お前は今までに、大人でも背負いきれないものを背負わされ続けてきた。これ以上何かを背負わせるには、心痛むものがある。しかし、これはお前の星だ。私もしっかりお前に伝えておく。その男のためにもな。

これは、鄭天寿の命だ。私が本営に戻ったとき、お前の熱はもう下がり始めていた。だから、この蔓草が役に立つことは無かった。これが鄭天寿の命だとしたら、情けないほどどうでもいい命でもある。しかし、ひとりの、この世でただ一人の人間にとっては、無上に大切な命だ。

人の死はそんなものだ。お前の中で、杜遷はいき続けている。お前がやることは杜遷がやっていることでもある。お前の考えは、杜遷の考えでもある。


2009年10月21日水曜日

水滸伝(7)/北方謙三

[雷横]

聞煥章が宋江の場所をつかんだ。宋江は太原府の山中に追い込まれ、一万数千の官軍に包囲されてしまう。陶宗旺が石積みのわなを仕掛け、攻撃に備える。官軍は包囲網を狭め、ついに火攻めを開始した。飛竜軍、朱仝と雷横の兵、さらに、林冲の騎馬隊が宋江の元へ駆けつけていく。一方、青蓮寺は史進率いる少華山の殲滅を目論む。その謀略に対して、史進はある決断を下した。


「志があるべきかなど、一人一人で違う。お前は土を捨て、戦いを選んだ。大事なのは、それなのだ。戦い抜くことができるのか。自分が選んだことをやり遂げられるのか。志は、難しい言葉の中にあるのではない。お前のやることの中にある。」
「立ち止まらずに、考えろ。戦いながら、考えろ。それで、見えてくるものがある。立ち止まっていれば、今と同じものしか見えん。そういうものだぞ。」

「俺は軍人だ、陶宗旺。だから死に様は大事にしている。邪魔はするなよ。」


俺は、まだ立っている。雷横は思った。男は、決して倒れたりはしないのだ。


「お前は、穢れてはおらん。人は、自ら穢れるのであって、他人に汚されるのではない。そうなのだぞ、金翠蓮。」




2009年10月18日日曜日

水滸伝(6)/北方謙三

[秦明]

楊志を失った梁山泊は、その後継者として官の将軍・秦明に目をつけた。
秦明を梁山泊に引き入れるため、魯達は秘策を考え出す。
また、蔡京は拡大する梁山泊に危機感を抱き、対策を強化するため青蓮寺に聞煥章を送り込む。聞煥章は李富が恐怖を覚えるほどの才覚を持っていた。
聞煥章が最初に試みたのは、宋江の捕縛である。強力な操作網が宋江を追い詰めていく。

「人は誇りに生き、死するものだ。私の誇りは、誰にも踏み躙ることはできん」

水滸伝は、医者の安道全をはじめ、戦さだけでなく、裏で活躍する人物についても書かれている。
魯達の秘策でも登場する、字をまねるのが巧い蕭讓や、印鑑の偽装を担当する金大堅などだ。

かたちではない、なにか。真似るというより、自分のものにしてしまう。それで本当にその人間の字が書ける。

この巻では、馬の医者、皇甫端、走ることが得意な、王定六などが登場する。

七日かかるといわれたところを五日で双頭山まで駆けてきた。
「長く走ることについちゃ、誰にも負けねえんだよ。雷横とかいったな、おまえ。そう思わないか?」

こういった、戦以外でも活躍する人物がいることが物語を引き立てている。




2009年10月17日土曜日

水滸伝(5)/北方謙三

[楊志]

宋江の居場所が青蓮寺に発覚した。長江の中洲に築かれた砦に立てこもるが、官軍二万に包囲される。
圧倒的な兵力に、宋江は追い詰められていく。
魯智深は、遼を放浪して女真族に捕縛される。鄧飛ひとりが救出へ向かうが、幾多の危難がそこに待ち受けていた。
そしてついに、青蓮寺は、楊志暗殺の機をつかむ。妻子と共に闇の軍に囲まれ、楊志は静かに吹毛剣を抜いた。

「父を見ておけ。その眼に、刻み付けておけ!」

楊志と、一瞬眼が合った、と石秀は思った。そして、楊志は微笑んだ。

なにか、別の世界を、李富は見ているようだった。戦場ではない。殺し合いでもない。これだけの人数がいるのに、見えているのはたった一人の生き様だけだった。あの男は、なぜあそこにいるのか。なにが、あの男を生かし、輝かせているのか。

5巻は、北方水滸伝で最高の巻の一つだと思う。

官軍の許定将軍の陣営から戦いとは無縁だった青蓮寺の李富が見た男の生き様。
このシーンは、小説全体の中で、一番と言っても過言ではない。


2009年10月13日火曜日

水滸伝(4)/北方謙三

[李逵]

馬桂は愛娘を殺され、悲嘆にくれていた。青蓮寺は、彼女をだまして梁山泊への密偵に仕立て上げ、ひそかに恐るべき謀略を進めていく。一方、宋江は、民の苦しみと官の汚濁を自らの目で見るため、命を懸けて過酷なたびを続けていた。
その途中で、純真さゆえに人を殺してしまった李逵と出会う。李逵は次第に宋江に惹かれていくが、そこに思わぬ悲劇が待ち受けていた。

本巻から、雷横や朱仝、李逵、穆弘、李俊など主な人物が出てきて、青蓮寺の手も李富に黄文柄などをはじめに活発になり、読み足が止まらなくなってきた記憶がある。

「志は志なりに皆正しい。俺はそう思う。そして、志が志のままであれば、何の意味も無い。」
「お前が官軍で抱いていた志が実現されれば、それはそれで立派なことだっただろう。」

林沖の楊志への言葉は、非常に共感できる。


2009年10月10日土曜日

水滸伝(3)/北方謙三

[魯智深]

楊志は盗賊に教われた村に遭遇する。人々は惨殺され、金品は奪い尽くされていた。
何も手を打とうとしない政府に衝撃を受けた楊志は、魯智深とともに、盗賊の根城・二竜山に乗り込む。
そして初めて吹毛剣を抜く。
一方、国を裏から動かす影の組織・青蓮寺は、梁山泊の財源である「塩の道」を立とうと画策する。それに対抗するため、公孫将率いる闇の部隊・致死軍が動き出す。
荒ぶる北方水滸、灼熱の三巻。

怒りは燃えているが、それに狂うことは無かった。ひとり二人と、確実に楊志は、賊徒を切り倒して行った。

おまえは、ここを出たら、また無為に流浪するだけであろう。男として、誇りを抱いていたのは分かる。軍人としてもな。一度そんなものを全て捨てて、自分を見つめてみろ。自分がどんな風に国に役立つか。考えてみるのだ。

過去の誇りを捨てきれず、今一歩、踏み出せないままの楊志。
裏切られた孔明に、斬りかかろうとするシーンでの孔明の言葉が印象に残っている。

国に腹を立てているが、戦い方が分からない、桃花山の李忠、周通。
自分の能力に素直になるシーンも印象に残っているな。

そろそろ、形ができつつある。