2010年2月28日日曜日

枕女優/新堂冬樹

「少し瞼が重いな。鼻ももう少し高い方がいい。歯並びも気になる。谷川、一ヶ月で、全部直させろ。売り込みはそれからだ」。
高校三年生の夏、一人の少女がある弱小芸能事務所のオーディションに合格し、芸能界への切符を手にした。芸能人・鳥居水香の誕生…しかし憧れの世界に入った彼女の前には、想像を絶する現実が立ちふさがっていた。
月収数千円の生活に耐える日々、バーター女優と蔑まれる屈辱、そして自らの身体を駆使して役を獲得する“枕営業”。親を、友を、故郷を捨て、そして「整形」により十七年間ともに歩んで来た「鈴木弘子」という“個”までも無くしてなお、少女はトップ女優になることを決意する。
プロデューサー、脚本家、企業の重役との「夜の営業」、ライバルのスキャンダルを画策、プロデューサーへの恐喝。そして数年後。四クール連続のドラマ出演、六本のCM、「なりたい芸能人の顔NO.1」…バーター女優・枕女優はいつしか、わがまま姫・独裁女王・女帝と呼ばれるようになり、芸能界のトップに君臨していた。しかし…。芸能プロダクション社長でもある著者が「芸能界」を舞台に初めて描いた、衝撃の問題作、ついに刊行。
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章毎に挿入されるショートストーリや、最初に回想シーンから入るところなど、構成に工夫がされていて、珍しいなと思った。


「弘子。別人みたいな顔になって売れて、それで幸せなの?」
「そう。あなたがいいなら、何も言わないわ。でも、母さんの知っている弘子は、もういなくなったわ。」

黒新堂冬樹のブラック営業術/新堂冬樹

「うまくいかない」「もうだめだ」と落ち込んでいる人間に同情はしない。
悩んでいる暇があったら、人を驚かせることを考えろ!

新堂冬樹がビジネス本を出した。
すぐに、積読本をほったらかして、読み始めました。

金融コンサルタントから昆虫対戦DVDの作成に携わり、小説家に転向し、芸能プロダクションを設立。
様々なことを経験されている筆者で、その小説も多岐にわたっていて、好きな作家の一人です。
欲望渦巻く裏社会を描いた作品「黒新堂」と、ピュアなラブストーリーや家族愛を描いた作品「白新堂」と呼ばれる両極端な作風があります。
その中でも「黒新堂」は、他の作家にはない、ある意味現実的な人間のグロさを描かれていて、読後感が良い物はほとんどない。
でも、次々の展開が気になり、あっという間に読んでしまう小説。

そんな筆者が書くビジネス本は凄く興味を持ちました。


・自分が開拓した、経験した事は必ず武器として自分の中に残しておく。
・百人に聞いて九十人以上がすぐに賛成することは大成功しない。
・心配事な種ができたらその物事を抱え込んだり逃げたりせずに、真正面から向き合い答えを出す。
・水たまりと川がある。水たまりは澱んでボウフラが湧くのが落ちだが、川は水が綺麗だ。それは、流れがあるからだ。
・何もしなければ傍観者だけれど、何かしてしまったら自分の作為になる。そこで逃げてしまっている人が世の中には多いような気がする。そして、善人で居たいがために何もしないでいるうちに、回りはどんどん進んでいってしまう。
・キャバクラを描いた作品はキャストを主軸にしたものが多い中、私はあえて、「ボーイから高みに上っていく一人の男」を描いた。
・部下を持っているビジネスマンの始点からすると、部下が燃える相手、すなわち、好敵手を見つけてやるということだ。
 「今このタイミングで彼に営業所を持たせたら、新堂への対抗心からかなり業績を上げるだろう」という予測を、ドンぴしゃりのタイミングで当ててきたのだ。
・部下は頼りにしているから不満をぶつけてくる。そこで押さえ込んだところで、部下もそんなところは見抜いている。「器の小さい人なんだな」と思われて終わりだ。
・自分を壊すことには勇気がいる。しかし、だめな自分なら壊さなくては先に進めない。そしてそれができるのは、上司でも仲間でもなく、自分だけだ。
・物事がうまくいかないのは、このように自分だけで理由をつけ、決めつけ、歩みを進めないことが全ての原因だと私は考えている。
・「ある人が嫌いだ」と言うとき、あなたは大嫌いなその「ある人」に支配されてしまっているのだ。あなたが嫌いな相手に振り回されている状態は、あなたは、嫌いなその相手の監督しているドラマに、役者として出演させられている状態なのだ。
・単なる馬鹿正直は絶対にいけない。嘘をつくことで平和が保たれるのであれば、そのうをは
ついたほうが良い。
・ストーリーはシンプルに、仕掛けは複雑に。
・急がば回れは、急いでいる時は回り道をしろという意味では無い。急いでいる時にこそ何倍もの手間暇をかけて努力をしろという事だ。
・引き戸を押し続けていないか?

2010年2月16日火曜日

ナイチンゲールの沈黙/海堂尊

大人気、田口・白鳥コンビの活躍再び!今度の部隊は小児科病棟。病棟一の歌唱力を持つ看護師・浜田小夜の担当患者は、眼の癌---網膜芽腫の子供たち。眼球摘出をせざるを得ない彼らに心を痛めた小夜は、患児のメンタルケアを不定愁訴外来担当の田口に依頼し、小児愚痴外来が始まった。
手術前で精神的に不安定な子供たちのメンタルサポートを、不定愁訴外来担当の田口が行うことになった。時同じくして、小児科病棟の問題児・瑞人の父親が殺され、警察庁から出向中の加納警視正が病院内で捜査を開始する。緊急入院してきた伝説の歌姫と、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔も加わり、物語は事件解決に向け動き出す。読者を魅了する、海堂尊のメディカル・エンターテインメント
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前作が凄く良かっただけに、同じ登場人物でまた面白いものが書けるのかどうか、読む前から疑問でした。

少しSFの入った内容は、あまり好みではなかったですが、全体的には楽しめました。
加納・玉村の警察コンビや、その他の登場人物もそれぞれキャラが立っているのは、この作者の非常に面白いところだと思いました。

小児科医の奥寺教授、副島助教授、内山医師のやり取りが、今回メッセージを込めたかったところなのかもしれないと思いました。
小児科医(だけではないかもしれませんが。)の実情を訴えるという意味で。

「子供と医療を軽視する社会に、未来なんてないわ。」副島

「副島先生は、ご自分の生活に満足していらっしゃるんですか?」聖美
副島が心の奥底で圧殺し続けてきた何かが、密かに息を吹き返す。
緊急呼び出しのため着替えている自分の後姿を諦めたように見つめる夫の視線。自分の手をそっと握り、しがみついてくる幼い娘の手を振り解いて、冷たい夜の中に出かけていく自分の姿。

「内山君は間違っていない。医者だって人間だ。休みたいときもあるし、嘘をつく時だってある。だが今のままでは、君は将来禍根を残す。その禍根は、君自身の未来に傷痕を残す。悪いことは言わん。ここは老いぼれの顔を立てて、負けておきたまえ。」

「私が死ぬのは運命よ。だけどあなたの運命はまだあなたの手の中にある。あなたが私と同じ道を選ぶのはかってだけど、私はそんなことは望まない。だって、そのときこそ本当に私は死ぬの。私の存在を最後に消滅させるのは瑞人君、あなたなのよ。」

「全面協力知っている我々にそのような暴言を諮れるなら、当院にも考えがあります。」
「女が本気なら、そのときには男は見届けるしかない。それは力が要ることなんだ。」

時折見せる、強気な田口先生が良い。

「どうして俺は、どこでも田口先生なんか、といわれてしまうのだろう。」

ルールは破られるためにあり、それが赦されるのは、未来により良い状態を残せるという確信を、個人の責任で引き受けるときだ。

高階病院長

2010年2月11日木曜日

女王蘭/新堂冬樹

お前の中の天使を封印しろ。そして、夜の世界に咲き誇る女王蘭になれ。
自分を裏切り、父親を死に追い込んだ。「風俗王」藤堂への復讐を誓った優姫は、敵の主戦場である水商売に身を投じた。
日本一のキャバクラ・キャストを目指して、藤堂と対峙する立花の新宿フェニックスに入店。しかしそこには伝説のカリスマキャスト冬海がいた。風俗業界の覇権を巡り熱い火花を散らす二人の男。そして美しい毒牙を磨きあう二人の女。。。。
一瞬もとどまることのない戦いの中で魔性の魅力を身につけていく優姫に、いつしか立花は自らの野望をかけようとしていた。キャストの引き抜き、出店合戦と抗争が激化する中、冬海が突如引退を宣言した!
連続テレビドラマ化されたベストセラー「黒い太陽」の世界に、妖しくも華麗なヒロインが登場!
エンターテインメント会の鬼才・新堂冬樹が、風俗産業の闇に挑んだ傑作サスペンス最新作。
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黒い太陽は、ドラマ化される前に単行本を購入した。

徐々に夜の世界にのめり込み、変わっていく立花の眼つきや雰囲気まで伝わってくる小説でした。

今回は、立花と優姫の戦い。

途中でキャスト同士売り上げを競うグランプリが行われるが、嬢王のQ-1を思い出す。
エンターテインメントとしては、Q-1には遠く及ばないが、「憎しみ」が根底にあるこの作品は、黒い部分の描写は凄まじい。

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「私・・・・社長のことが・・・」
「言うな」
「俺に対しての気持ちで動くうちは、お前は冬海になれない。冬海を超えたいのなら、藤堂をもっと憎め。」
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その女は、女性と呼ぶにはあどけなく、少女と呼ぶには冥い瞳をしていた。
その女は、淑女で居るには傷つきすぎ、娼婦で居るには気高すぎた。
その女は、誰よりも純粋で、誰よりも残酷だった。
その女は、どこまでも優しくなれ、どこまでも非情になれた。
その女は、ある者の瞳には天使に映り、ある者の瞳には悪魔に映った。
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物語を作る際、倉科遼と新堂冬樹では、主題に持ってくる立ち居地が違う、、、
夜の世界での白新堂というのも見てみたいものです。

2010年2月10日水曜日

g@me

ゲームの名は誘拐 の劇場版、

悪い人たちだけの物語を書きたかった、というのがコンセプトらしい。

小説とは少し内容が違いますが、劇場版には悪い人が一人加わったという感じか・・・。

小説のほうが細かいところまで筋が通っていて、「なるほど」と思い、ミステリーとしては面白かった。
劇場版のほうは、主人公の完全勝利、というしっかりした結末になっている。

いずれにしても、誘拐事件について報道がなされる時の展開から、面白い。

2010年2月7日日曜日

ゲームの名は誘拐/東野圭吾

敏腕広告プランナー・佐久間は、クライアントの重役・葛城にプロジェクトをつぶされた。
葛城邸に出向いた彼は、家出して来た葛城の娘と出会う。"ゲームの達人"を自称する葛城に、二人はプライドをかけた勝負を挑む。娘を人質にした狂言誘拐。
携帯電話、インターネットを駆使し、身代金3億円の奪取を狙う。
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東野圭吾は読まず嫌い、というか作品が多いので、全てを制覇したくなる自分としては、手を出したくなかった作家でした。
でも、g@meを観て、それが凄く面白くて、「東野圭吾」ってこういう作品を書く人なんだと思い、読み始めるようになった。

本はだいぶ映画と内容が違ったけど、それでも面白かった。
どちらも違う作品として、面白い。

「登場人物みんなが悪い物語を書きたかった」という作者の意図は、確かにそのとおりで、そこが映画と違う要因となっていたように思う。

すごく論理的で、裏の裏まで読み、誘拐事件を仕立てていくところは、こちらもドキドキして、読み足が速まりました。

最後のどんでん返しからはもう、止まらなかったですねぇ。

葛城も佐久間も、非常に頭が良くて、なるほどなぁ、って素直に感心しながら読みました。

2010年2月4日木曜日

ZOO/乙一

カザリとヨウコ
母親の扱いが極端に違う、双子の姉妹のお話。
母親の家庭内暴力を受けても、無邪気なヨウコが痛々しい。
最後は一斉一代の提案で、恐ろしい結果に、、、
色々疑問や今後が気になるけど、それも短編の良いところか。

SEVEN ROOMS
姉弟が、何者かに襲われ、殺風景な部屋に閉じ込められる。
そこは、七つの部屋が並んであり、毎日一人ずつ殺されては、新しく囚われた人が追加されて行く。

犯人の意図は全くわからんけど、最後のシーンの高笑いは、声が聞こえて来そうだった。

SO-far そ・ふぁー
両親がお互いが見えないかのように、毎日を過ごす。
電車事故があった日。
この話は、かなしいなぁ~。
大人げ無いよ!

日だまりの詩
人類滅亡後のロボットの話。
この話は結構好き。
心というものは、よくわからないものだが、大切だな。

ZOO
まぁ、おかしなやつの話。
自己陶酔の強い人です。
最後は、伏線が多すぎたか、結末が読めた。
ずっと一人称で書かれているのが、不思議な感じでした。

2010年2月1日月曜日

探偵ガリレオ/東野圭吾

突然、燃え上がった若者の頭、心臓だけ腐った男の死体、池に浮かんだデスマスク、幽体離脱した少年・・・・警視庁捜査一課の草薙俊平が、説明のつかない何事件にぶつかったとき、必ず訪ねる友人がいる。帝都大学理工学部物理学科助教授・湯川学。常識を超えた謎に天才科学者が挑む、連作ミステリーのシリーズ第一作。
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本作は、福山雅治と柴咲コウが主演のドラマを見てから読んだ本で、原作は掲示役の草薙が男だったとは知らなかった。

ちょっと、湯川学のキャラがドラマとは違うように感じた。「実に面白い」の台詞とか出てこないし。。。
小説は結構普通だったなぁ。

"草薙は、聡美が使い捨てライターでタバコに火をつける様子を観察した。彼女の右手の中指と薬指に、指輪がはめられていた。"

聡美の指紋を採取したいという意図があったこのシーンの描写はなんか巧いなぁ。
文章の描写で、あえて登場人物の意図を逸らすような感じが、面白いと感じた。