2008年11月6日木曜日

MISSING

本多孝好

恋愛推理もの短編集。

短くて、すっきりしてて、読みやすい。

【眠りの海】
愛情に飢えた子供が取る手段といえば、すねるか、その逆に愛想良く振る舞うかだ。
子供の頃の私は後者を選んだ。礼儀正しく、人当たりが良く、明朗で、誰にも親切に接し、それでも決して本心は見せない。
私は胸によどんだ疎外感をはき出すことは出来なかった。
「母は言いました。私だって、好きであなたを生んだわけじゃないって。私を産んだのは、あの人からお金を引き出すための口実だって。」
「その京子って言う人は、死にたがっていたんや。それもただ死にたがっていたんと違う。おっさんと一緒に死にたがっていたんや。」

【祈灯】
ずっと妹の振りをする幽霊ちゃん。
「父がすでに私たちの父親でなかったように、母ももう私たちの母親ではなかったのだと。愕然としました。母を見つけた典子は、私の手をすり抜けて道に飛び出しました。私が気付いたときには、もう車にはねとばされていました。私、決めたんです。両親に一生かけて償わせてやろうって」
「高いところから夜の街を見下ろすとき、みんな似たようなことを考える。あの小さな灯りの一つ一つに、知らない人のささやかな、それでもかけがえのない暮らしがあるんだって。でもそのあとは、二通りに別れる。」
「そのささやかな暮らしのために祈る人と、そのささやかな暮らしを呪う人と」

【蝉の証】
ずっと先の未来、宇宙人がやってきてこれを見たら何かのモニュメントだと思うだろう。あるいは、かつてこの星に栄えた文明が宇宙に向けて発したメッセージだと考えて、その意味を解析するかもしれない。
仮にこれが住居だと言い当てることができたとしたなら、彼らはきっと、人という種をここに押し込めた、人より優位にあった種の痕跡を探そうとするだろう。
「この年になれば、一人で死ぬ事なんて怖くはないんだよ。一人で死ぬ覚悟なんてとっくにできてる。そんなことちっとも怖くなんか無い。」
「だけど、ねぇ、一年に一度で良い。一分でも、一秒だって良い。自分が死んだ後、生きていた日の自分を生きている誰かに思い出して欲しいと願うのは、そんなにぜいたくなことなのかい?死んだ途端にハイ終わりじゃ、だって、あんまりにも寂しいじゃないか。」

【瑠璃】
「私と寝たい?」
「でも寝ないんでしょ?」

【彼の棲む場所】
「彼らにとって、知識とは職業であって、人生を豊かにするための物ではないんだ。自分が知って居なきゃいけないことを知っていればそれで良い。好奇心も向上心もありゃしない。そんな輩に人間的なおもしろみがあるはずないし、耳を傾けるに値する言葉をはけるわけがない。」
「僕は正しいことしかできない人間なんだ。もちろん間違えることはあるし、知らずに悪いことをしてしまうことだってある。そうじゃなくて、僕は意識的に悪いことをできない質なんだ。時々、自分でも自分に腹が立つよ。」


0 件のコメント: