2008年3月2日日曜日

竜馬がゆく(一)

司馬遼太郎

竜馬が土佐を出て江戸の千葉道場で修行を重ね、黒船来港・寅の大変・桂小五郎を破る安政諸流試合まで。

「旦那にもらった金で、いまごろは豪勢に風呂酒をあそんでるだろう」
「以蔵め、そいつは面白かったろうな」
竜馬は生まれつき明るい話が好きな男だから、足軽以蔵の陰気な話がやりきれなかったのだが、いまの藤兵衛のはなしで救われたような気がした。妙な性分である。腹が立つよりも自分までが風呂酒を飲んで陽気に騒いでいるような気分になってくる。

(桂は桂、おれはおれだ。桂と違って元々晩稲の俺はまだまだ学ぶべき事がいっぱいある。とりあえず、剣術だ。)とおもった。(強くなろう)とも思った。自分を強くし、他人に負けない自分を作り上げてからでなければ、天下の大事はなせまい。

竜馬は天性、既成の道徳を受け付けにくいたちで、竜馬式の武士道を持って自分の行動の基準とした。
ー 人にあふとき、もし臆するならば、その相手が婦人とふざける様は如何ならんと思へ。たいていの相手は論ずるに足らぬように見ゆるものなり。
ー 義理などは夢にも思ふ事なかれ。身をしばらるるものなり。
ー 恥といふことをうち捨てて世のことはなるべし。


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